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2003年12月。生後約4ヶ月半。
捜索は、毎日車に寝泊りして(夜も見張ってないといけないから)の連日SA内ホームレス状態で行ったが、連休いっぱい(12日)までは捜す覚悟でいた。

SAの案内所・レストラン・売店・清掃係・ガソリンスタンドなど考えられる先にビラを配り、貼って、目撃情報がないか聞き、敷地全域と隣(下り)のSA、下の道にも従業員用通路を通って歩き回り、近隣の会社や事業所にも呼びかけた。

初動の結果、いなくなった翌6日朝に、ヤブの下やSA従業員駐車場、また清掃事務所付近で、グレーの猫を見かけたという目撃情報が得られた。まずはほっとした。が、しかし、この目撃情報の連絡は自分の元には届いていない。やはり来て良かったと確信した。

少し望みが出て、希望を胸に捜索を開始したが、その後は何も得られず、7日夜には小雨が降り出し、明け方には小雪が舞った。
天候次第では捜索がかなり困難になるのは想像できたが、それよりも、この一帯のどこかにいるであろう『ミルク』が思いやられた。暖かいところしか知らない『ミルク』なのだ。

幸い、雪は積もらず、翌8日の午前には晴れ間も出て、朝から本格的な捜索に動くことができた。しかし、2日め(8日)3日め(9日)とも、グレーの猫を見ることはできず、それらしい情報も無かった。(天候は曇りが多かったがまずまずで。) 果たして、目撃されたのは本当にグレーの猫だったのか、またそれが『ミルク』であったのかさえ疑わしい気分になった。

しかし、ともかく、猫の行動を考えて、夜明け頃と夕方から夜にかけての時間帯に重点を置き、日なたぼっこの昼寝時間帯も注意して、朝は5時半に目覚ましを合わせ、トイレの洗面所で顔を洗い夜明けを待ち、昼間は一日何度も敷地内外を巡回しては『ミルク』の名を呼んで、エサを撒いたりしながら(でも見事にカラスと野良犬に食べられた)、夜の時間は、毛布を膝にかけ双眼鏡片手に車中からヤブ周辺を注視して、時に巡回し、就寝は深夜0時としていた。



 とにかく寒い。
晴れ間が出ていれば、まだ日なたぼっこに出てくる可能性もあるが、
曇ると風が冷たく身を刺し、それは望めそうにない。
 SAに立ち寄る人々も、日が差しているかどうかで、屋外の風景が
大きく異なった。
睡眠中の寒さはちょっと辛かった。時たまエンジンをかけて暖をとるもののすぐ冷え込んだ。しかし、同じ寒さをこの1kmの圏内で(迷子猫の行動範囲はそのくらいだそうだ)『ミルク』も味わっているかと思うと我慢もできる気がした。

車の中からの監視は、ずっと見回しているので、本など一切読む暇は無く、ラジオやCD、携帯型MP3プレーヤーをかけることが多かった。しかし、外を歩くときは、どこで気配の物音や鳴き声がするかわからない。いつも周囲に耳を傾けねばならなかった。食事についても、施設内で食べるときは短時間で済ませたが、ほとんどはサンドウィッチやおにぎりを車中で食べるようにした。眠くなるのはまずいので酒も飲まず、ほんとうに、家での毎日の生活よりずっと折り目正しい、禁欲的な聖職者のような生活だった。(笑)

車中での寝泊りは、車がセダンであったこともあり、やはり疲れの溜まるものではあったが、サービスエリアという場所は、生活するにはそう不便ではなかった。洗面もトイレもあり、食べもの飲みものは24時間得られる。唯一の欠点は風呂が無いことぐらいだ。
滞在期間中、結局風呂は一度だけ、9日の日に、四日市に住む友人に教えてもらったスーパー銭湯へ行った。隣の四日市東ICから15分ぐらいの所にあり、大きな風呂でしばし疲れを癒せた。温泉旅館でもないのに、こんなに湯に入る喜びが感じられたことはなかった。

茶トラの野良猫。2度見かけた。



白の野良猫。白は他にもう1匹いた。
肉付きがいいのは、毎日清掃係の人が餌付けしているからのようで、いつも見かけるのは清掃事務所近くだった。



野良犬。他に3匹いた。この犬がいちばん大人しかったが、このSAでの捨て犬か迷子だろうか。1匹で姿を現すときは決まってパーキングを向き、何かを探し待っているかのようにじっと座って見ていた。
首に巻いているのは御守やキーホルダーなど10個程。立ち寄った人たちがそれを見て次々に付けたのだと思う。
”必ず『ミルク』を連れて帰る”という信念のもと、我ながら頑張っているとは思ったが、しかし正直なところ、1日、2日と経つうちに、失望感とあきらめがどんどん膨らんでいった。

それくらい毎日かなり根を詰めて捜していたし、その結果見ることができたのは、茶(1)と白(2)の3匹の野良猫と、野犬化している野良犬4匹だけで、毎日何度ヤブや林に呼びかけても全く反応が得られなかった。
ヤブや林で『ミルク』の名を大声で呼んでいると、決まって野良犬がどこからともなく出てきて吠えかかってきた。そのため、巡回時はカメラ用のスライド式一脚を持ち歩き、それが護身棒代わりになっていた。

6日の朝には数人の人がヤブの下や清掃事務所で『ミルク』らしきグレーの猫を見ているのに、どうしてその後は見つからないのか?。エサを獲ることができず、そのまま林の奥へでも入り込んでしまっているのか?。飢えと寒さで衰弱して動けないでいるのだろうか?。それとも高速道へ出てしまい・・・・。悪い想像がどんどん頭をよぎった。
一日、一日、残される日が減ってくる。タイムリミットまでは数日あったが、「もうダメかも知れない・・」と妻には携帯で伝えた。



SA下の道沿いにある板金工場。
ヤブからは多数の廃車スクラップが眺められる。





同じくSA下の道沿いにあるテニスクラブ。
ここの人も親切で、ビラを貼ってくれると言ってくれた。

ヤブからSAパーキングを見る。
左端の木にかけた白い袋がわかるだろうか。
キャットフードを仕掛けたもの。この他に数箇所。


同じくSA下の道沿いにある古紙集積所。
この事務所の人はとても親身に聞いてくれた。

SA下の道を通って高速ガード下のトンネルを
抜けたところの風景。右端の白い建物は下り線
の御在所SA。
SA滞在こぼれ話
★御在所SAの
  お徳なメニュー★

連日SAのメニューを見ていると、通りすがりではわからないお買い得メニューが見えてきた。というわけでご紹介。


○伊勢うどん/¥300

他のうどんやそばはどれも単品で¥480か¥500なのに(きつねうどんでも)、「伊勢うどん」だけは、どういうわけだか¥300。どんなものかというと、釜揚げの温かいうどん(つゆなし)に鰹ぶしやネギなどの具材を少しのせて、薄味の醤油をかけたもの。私は半分そのままで食べた後、SAの無料の湯をカップにとってきて加えてみた。つゆを増やして普通のうどんにしたのだ。思いのほか違和感無く食べられた。¥300で結構いける。

○味噌漬けカツ丼/¥530
よく似た「味噌漬けカツ定食」は¥650なのに、これが「味噌漬けカツ丼」になると¥530なのだ。ともに漬物がついて、ご飯とカツが分かれているかどうかぐらいの違いでだ。大きな違いは、定食のほうには付くキャベツぐらい。ともに味噌汁は豚汁が付いてくる。¥120の差がよくわからない。器の違いだけなら、胃の中に入りゃいっしょ、丼のほうが断然お徳だ。ちなみに、「豚汁定食」は豚汁が大きめの椀に入っていて量が少し多いというだけで、あとは同じようにご飯と漬物が付いて¥650だから、カツも食べられる「味噌漬けカツ丼」の圧勝だと思う。


◆感覚が発達?
連日、ヤブや林に目も耳も鼻も意識を集中させていたせいだろうか、車内で聴いていた携帯用MP3プレーヤーの音量が、いつもはレベルを”24”にして聴いていたのに、だんだんうるさく感じるようになり、最後は”13”まで落として聴いていた。普段ではありえないことだ。人間の五感は、生活や環境で失われたり優れたりするものなのだろう。便利な都市生活の中で失っているものも少なからずあるのだと思う。普段の生活でも気をつけねばと考えさせられた。

そして4日めとなる10日。車を置いたところから360度周囲を眺め回していたとき、清掃のおばさんが声をかけてくれた。(SAの営業スタッフの間では、連日捜索に歩き回る私がどうも気になっていたらしい。笑。それは覚悟の上だったが) 6日の朝に『ミルク』らしきグレーの猫を直接目撃された方だった。白の野良猫はこの方が餌付けされているとのこと。『ミルク』らしいグレーの猫は、その白猫用に出されたフードを食べに来ていたとのことだった。野良は付近に何匹もいるらしいが初めて見る猫だった、とも。

ひとつ確実な痕跡を知れただけで、少し明るい気持ちにはなったが、でもそのとき邪険にされた(猫の縄張り争いで?)のではないか?との推察もできた。『ミルク』の性格では一度エサをもらったらまたもらいに行くと思えるのだ。その後姿を現さず食べにも来ていないということは、その時良い思いができなかったのでは?。それでヤブや林にまた入り込んだのではないか?。もしくは、交通事故などトラブルに遭って翌日から来れなくなったという可能性も考えられた。

結局、この日も前日と同じように、太陽の昇る前から暮れるまで頑張ったが、6日の目撃情報以外の新たな発見は何も得ることができなかった。(見かけるのは他の猫と野良犬ばかりで)
「今日も見つからなかったなぁ」と内心がっかりしながら、車中からの夜の見張りのためにドライフードをヤブ近くの木の幹に仕掛けに行った。そして、いつものように、ヤブの斜面に向かって「ミルクー!」と呼びかけた。その時だ。
か細い猫の鳴き声が「ミャーゥ」とヤブの上の方から聞こえてくるではないか。
『ミルク』か??? 気持ちは高ぶり、何度も続けて呼ぶと、その度に鳴き声を返してくる。間違いないと思いつつも、しかし本当にミルクかどうかはわからない。2日前には白の野良猫も「ミルク」と呼んだら返事をしたのだ。

「ミルク」「ミルクか?」「ミルク、どこだ?、どこにいる?」声を掛けるたびに、その猫は助けを求めるかのように弱い鳴き声を引っ切りなしに返してくれる。
やっぱりミルクだ!。気は焦り、しかし、鳴き声だけで降りてくる気配が全くない。ヤブの中腹で動けないでいるらしい。衰弱しているのか?、それとも木か何かに挟まって身動きがとれないのか?。

そのまま上のほうに行かれてしまったら、また元の木阿弥になる。暗闇の中、呼びかけを続けながら急いでそして慎重に、ヤブを掻き分け斜面を登って鳴き声のする方向に進んで行った。その間も猫は鳴き続けた。時間にして2分、いや1分半ぐらいだろうか。とても長く感じたが。あと少しというところでイバラが茂っていて痛いこと。我慢してそれを左右に押し分け、近くに迫ったら、最後の6、70cmは猫のほうからそばに降りてきてくれた。
そのからだを手に取りしっかり抱きかかえて、でも闇の中では顔も見えず、本当にミルクかどうか判別ができないまま、どうやって降りたか記憶も無いが、暗い斜面を急いで下りて街灯の下へ走った。


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